暦の話 4回シリーズ -- その3 -- |
暦注下段・十二直(歴注中段) 毎年発行されている各種の暦には、旧暦時代の歴注を復活させているものがかなり多く見られる。
歴注は大昔には、悪い日を避ける為の生活指針として、大変に珍重されていたらしいが、庶民の日常生活に与える悪影響が余りにも大きいので、明治の改暦に際して全廃された事は前回のべた通りである。 それでも依然として、その一部が今でも残っているのである。 今回はそのうちの2種について解説する。 歴注下段(れきちゅうげだん)
昔の暦本には歴注が何段にも分けて掲載されていたが、その一番下にあったものを下段(げだん)と呼んだので、今もそう称されている。 上述の通り、無くなったはずの歴注の中で特に無くすべきはずの下段を復活させている暦も現存する。
しかしその復活は、全部でもなく、だからといって一部とも言えない。 つまり全部(23種)にしては足りない事項があり、一部にしては余計なもの、旧暦にはなかった語句が入っていたりしている。 あってもなくても良いからそうなるのか。 1、下段の正式な23種とは以下の通りである。 @大吉、大安吉日にあたるもの7種・・・・
母倉日(ぼそうにち)、月徳日(つきとくにち)、天恩日(てんおんび)、大明日(だいみょうにち)、神吉日(かみよしび)、天赦日(てんしゃにち)、鬼宿日(きしゅくにち)。 A大凶、不吉日にあたるもの16種・・・・
十死日(じゅうしにち)、五墓日(ごむにち)、帰忌日(きこにち)、血忌日(ちいみにち)、凶会日(くえにち)、往亡日(おうもうにち)、重日(じゅうにち)、復日(ふくにち)、黒日(くろび)、受死日(じゅしにち)、天火日(てんかにち)、地火日(じかにち)、大禍日(たいかにち)、狼藉日(ろうじゃくにち)、滅門日(めつもんにち)、時下食(ときげじき)、歳下食(さいげじき)。 B以上について補足すると、
a、天赦日を選日や雑節に入れている暦本が多いが、正しくはこれは下段に属する。 (シリーズその2 2参照) b、この中には、呼び方を異にする場合がある。 鬼宿日は万事吉日とも言う。(後述2−E参照) 天赦日はよろずよしとも言う。(後述2−D参照) c、記号を入れている暦もある。 何の説明もなく記号が使われているのである。 例えば黒日はくろまる(●)で記入したりする。 2、殆どは十二支の中から1つの支が毎月配当され、その特定された支にあたる日が下段の項目の該当日になる。 その余つまり日の配当ルールが異なるのは以下のとおりである。 @月徳日と重日は十二支ではなく十干を使って配当している。 A天恩日は2つの説がある。 特定の3種の干支の日から5日間とし、60日間に15回配当する説。 節月毎に十二支を特定し、月に2−3日在るように配当する説、の2つである。 B大明日は(神吉日と同様のルールによるがそれとは別の)25種の干支を特定する。 C神吉日は六十干支の内23種を特定し、年間を通じその特定された干支の日を配当日とする。 D天赦日は年に4日しかない。 E鬼宿日は、二十八宿の23番目の星の日である。 名称、呼び方はうっとうしいが、二十八宿の中で最良の日(万事大吉日)といわれる。 出版社によって鬼宿を下段に特記してあった。 本稿でも下段として特記しておく。 F五墓日は、人を五行で分け、各人を納音によって配当している。 G凶会日は各月に干支を特定して配当している。 H時下食は日ではなく時間を忌む歴注であるから、各月毎に十二支の日を特定し、且つ時刻も特定して配当している。 I歳下食は、年を十二支で分類して、十二支毎に特定の干支の日を決めて配当する。 3、下段は迷信的な要素が特に強く、庶民に影響する弊害も著しいので、当時でも識者からの批判が多くかったし、国家権力によって何回も禁止処分されたのであるが、なかなか改められること無く、庶民の間で根強く支持され続けて、現在まで生き延びてきている。 個々の意味については「くだらない」ので省く。 十二直(じゅうにちょく)(歴注中段(れきちゅうちゅうだん))
どの暦にも8段目か9段目に「十二直」という歴注が記載されている。 「中段」とかいてあることもある。 江戸時代にあった「かな暦」の中段に12個の単語を記し、これにより日々の吉凶を占っていたなごりで、現在でも十二直は別名「中段」と呼称されている。 1、十二直は十二支と深い関係にあり、もともと中国の北斗七星信仰に由来したものである。 北斗七星(ひしゃくの形)の柄に当る部分の先端にある星は、破軍星(または剣先星、いくさほし等)と名ずけられているが、この星は、北斗七星の周期運動に従って一定の方角に位置する。 十二直は、この破軍星の指す方向から定められたものである。 また、十二直の順序もこれを基準にして決められている。 因みに中国の北斗星信仰とは、北斗七星が明るく輝き、かつ1年中ほとんど同じ位置に在る北極星に近いところに位置していて、大変に目立つ星座であるため、いずれの時代でも人々に様々な空想や強烈な感銘を与える星であるが、これが昂じて崇敬、畏敬の念を抱かせる迄になったことから生じた信仰のことである。
中国では古代からこの七星を神格化し、7つの星の一つ一つには人の運命は勿論、万物をも支配する力があると考えたほどである。 北斗七星が今も絶大な人気があるのは、その形状に特長が有って子供にも説明し易い為のようである。 2、十二直は、飛鳥時代頃から幕末、明治、大正、及び昭和の初期あたりまでは、暦の毎日に配当され、当時の人達はその吉凶をかなり重く考えていたようである。 もちろん婚姻の日取りは十二直によって選んだらしい。
婚礼の日取りばかりではなく、葬儀、法事、建築、増改築、井戸掘り、造作、事業、衣類の裁断、種まき、養蚕、酒作り、移転、旅行、治療、就職、など、日常生活のありとあらゆる吉凶判断をこの十二直の指示によって行う人が多かったと言われている。 今では六曜が一般的であるが、当時は歴注といえば十二直であり、逆に現代のように六曜の出番などはなかったようである。
因みに、これらの時代に生きた人は、日の吉凶を知る上で最も重要な十二直の配列順番を空んじて覚えていたらしく、十二直の頭文字を順にとって・・・・、
「十二直この頭文字を覚ゆべし、たのみたさとや、あなおひと也・・」という歌があったと伝えられている。 つまり、十二直の順序は次の通りである。 建(たつ)、除(のぞく)、満(みつ)、平(たいら)、定(さだん)、執(とる)、破(やぶる)、危(あやぶ)、成(なる)、収(おさん)、開(ひらく)、閉(とず)。
現在でも結納と婚礼に限って、この十二直を重視する人、集団が残っている地方が全国には未だ存在すると聞く。
ついでに婚礼の十二直による大吉日は「建」、「平」、「定」の3直であり、 お見合いのそれは「成」である。 3、前述1の通り、十二直を十二支と同じように日に配当すると、両者ともその数は12であるから十二直も十二支と全く同じ組み合わせになって面白くない。 そこで、変化をつけるため十二直は配当方法が工夫されている。
つまり、始めに廻ることになっている「建」を大雪(子の月になる)の後の最初の子の日と定める。 そこからスタートして節月によって「たのみたさとや・・・・」と毎日に配当することにしている。 @、十二支は子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥と順に進むが、これを方角に配当するときは、真北を子とし、以後十二支を順に東回りに配当する。
そうすると真東を卯、真南を午、真西を酉にあてたことになる。 旧暦各月への十二支配当は11月を始めの「子」として順送りする。 つまり旧11月、旧12月、旧正月・・・・を子丑寅・・・・と順に配当するのである。 A、一方、十二直ではその月の「建」を、12月、正月、2月・・・の順にその月の最初の十二支の日つまり丑、寅、卯、辰・・・の日に配当している。
B、この理由は次の通りである。
子月の冬至を過ぎた頃の「酉の刻」(日没後の薄明かりの頃)(今の午後6時ころ)には破軍星は北極星の方向、方角は北つまり子を指す。 このことから冬至の後の最初の子の日を建とし、よく日の丑の日を除として以下、満、平・・・・の順で配当することとした。 (11月を真北の「子」としたのは、北斗七星の剣先たる破軍星が11月(子月)には北をさすことに由来するのである。) 同様に丑月節の「酉の刻」には破軍星は北北東つまり丑の方角を指す。
このことから小寒の後の最初の丑の日を建とし、翌日の寅の日を除として以下、満、平・・・・の順で行く。 同様に寅月の節の「酉の刻」には破軍星は東北東つまり寅の方角を指す。
このことから立春の後の最初の寅の日を建とし、翌日の卯の日を除として以下、満、平・・・・の順で行く。・・・・・以下同じ。 つまり当月と翌月の境目で2日間、直がだぶることになる。 (これを専門用語で「おどる」という。踊るというのは繰り返すことである) これによって、うまく十二直が巡回することになっているのである。 然も1年経つと十二直は一廻りズレて、もとの十二支との組み合わせに戻る。
つまり寅月の寅日はその十二直が建となって、もと通りに戻るのである。 この方法は六曜の場合と同じ遣り方であるが、庶民の目からすれば、これがちょっとした面白さ、神秘性を感じさせるようである。 4、十二直の吉凶は1個1個独立して判断する場合と隣同士を1組として判断する場合とがある。 @隣同士を大吉、中吉、小吉、凶、大凶の5通りに分類すると、次のようになる。
大吉・・・満、平。 中吉・・・建、除。 小吉・・・定、成、収。 凶・・・開、閉。 大凶・・・破、危。 A同様に個々では、
大吉・・・満、平。 中吉・・・建。 小吉・・・除、定、執、成、収、開。 凶・・・閉。 大凶・・・破、危。 5、十二直の吉凶の解釈は歴注書によって多少異なる。
この12語についての説明は省略する。 |